共生の文化
人間・環境システム論のパラダイム (ch.2)
Paradigm of Human-environment System
2 癒しの人間・環境システムの仮設
H=f(p,i)の仮設
 本研究は以下に示す関係式H=f(p,i)
(H:癒しの状態、f:関数、p:パーフォーマンス、i:インスタレーション)に基づいて進められる。
 現在でも、心理学関係の研究においては新行動主義のトールマンのS-O-R図式が前提されている研究が多く、それらの研究によって新たな知見の断片が明らかにされてきたが、その方法論は要素主義であるという批判を免れない。また、S-O-R図式におけるRは一般に観察可能なレスポンスを指すのに対し、本研究のHは内省的に感知される心身状態を指す。本論もある要素をあらかじめ独立変数として設定するのであるが、スキナーのように客観的に観察された事実から帰納法によって科学的原理を導くやり方ではなく、本論の関係式の仮設は、ハルと同様に、まず仮設を演繹し、その妥当性を検証する方法をとる*。
 H=f(p,i)は多変数関数のかたちである。これは変数(variable)pとi に対してHが一意に決まることを意味するのみであり、それが初等関数の形で表されることを述べているのではない。また、変数といえどもここではいわゆる数量を表すのではなく、ある状態を表すものとして拡張されて定義される。とにかく、我々の「体験」ということを実体概念から関係概念へと捉え返そうという方法なのである。
 かつてクルト・レヴィンが類似の関係式B=f(P,E)を立てた時の方法がそれであった。ただし、レヴィンにおいてEは(不十分ながら)現象学的ゲシュタルトとしての環境を想定しているが、本研究のH=f(p,i)におけるiは物理的布置である。したがって、現象学的ゲシュタルトとしてのEはHの状況に即しておのずから表れる一種の風景である、という関係にある。
 癒しとは、より深く、安定的な癒しの状態へと変容した時、「癒されている」と実感するものである。つまり、Hn+1-Hn> 0の時、癒しの実感がある。
 ここに、ケン・ウィルバーの意識の構造論*を当てはめれば、たとえば次のように表される。
H7=f7(p,i)
H7:心霊的(サイキック)な癒しの状態
    f7:自然神秘主義的様式(例:大乗仏教等)
    p:大乗仏教修行における身、口、意のパーフォーマンス
    i:大乗仏教修行のためのインスタレーション
H6:(H6=f6(p,i) ケンタウロス的癒しの状態 とすると
H6からH7への変容は (H7-H6>0) 癒しの深まりを意味する。
*ただし、ハルの理論体系が公理の上に公準が積み重ねられ、それに系が付加されるという形の論理実証主義的心理学は彼が正確な量的理論を観察可能な環境と有機体の行動の間に組み立てようとしたものである。(T.リーヒー:心理学史1980、第11章新行動主義、参照)本研究におけるHは内観的であるが、生理学的裏づけも部分的に可能である。
*ケン・ウィルバーの意識の構造論
支点、病理およびセラピーと関連した意識の構造 (『万物の歴史』 P243から さらに「一例」を付加。『無境界』より参照)下表は、Takahashi Keisuke氏によるものを改変した。
 
意識の基本構造 
特徴的病理 
セラピー様式 
例 
 
<超個的(7〜9)> 
  
  
  
 
9・元因 
元因的病理 
無形神秘主義 
ヴェーダーンタ 
大乗・金剛乗仏教
道教
秘教的回教
秘教的キリスト教秘教的ユダヤ教
 
8・微細 
微細的病理 
神性神秘主義 
 
 7・心霊的 
心霊的病理 
自然神秘主義 
 
  
  
  
 
<個的(4〜6)> 
  
  
  
 
6・ケンタウロス的 
実存的病理 
実存的セラピー 
バイオジェスティック分析 
 
5・形式的・反省的 
アイデンティティ神経症 
内省 
ロジャース派セラピー 
ゲシュタルトセラピー
 
   
 
4・規則・役割的    
脚本病理 
脚本分析 
サイコドラマ 
交流分析
リアリティセラピー
 
  
  
  
 
<前個的(0〜3) 
  
  
  
 
3・表象的 
精神神経症 
暴露的技法 
精神分析 
自我心理学
 
  
  
  
 
2・空想的・情動的 
自己愛的境界例 
構造構築技法 
カウンセリング 
 
1・感覚物質的 
精神病 
生理的鎮静化 
支持療法 
 
0・未差異化または一次的母体 
分娩病理 
退行的セラピー 
ホロトロピックセラピー 
 
  

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