宗教の身心空間
東洋的癒しの構造とその場所づくりについて
3 東洋的H=f(p,i)の基本構造とその要素
中国的冥想、インド的冥想に共通する癒しの基本構造H=f(p,i)は次のように見出される(5)。
*中国的冥想H=f(p,i)
p:「歩」を中心とする気のコントロール
「身」=構造:気脈、丹田、気の流れ
技法:歩法中心の動功、静功
「口」=構造:呼吸
技法:調息
「意」=意念による気の誘導、観法
i:仙境(よい気場の発見)、寺院の建立(よい気場の建立)、五感に及ぶ様々なインスタレーションetc.
f:気功システム、日常の発達と「逆」方向(はじまり)への誘導
H:冥想状態p=i体験時の心身の相貌:仙境
冥想状態p=i体験時の心身の象徴:「光」
(上記の内、気功とは今日言われる狭義の気功ではなく、導引その他を含む気のコントロールを指す。)
*インド的冥想(無種子三昧を省く)H=f(p,i)
p:「坐」を中心とするプラーナのコントロール
「身」=構造:ナーディ、チャクラ、プラーナの流れ
技法:坐法中心の動的体位、静的体位
「口」=構造:呼吸
技法:調息、マントラ
「意」=制感→凝念→静慮、観法
i:山、森、樹下(よいプラーナの場の発見)、窟的空間、寺院の建立、マンダラの建立(よいプラーナの場の建立)、五感に及ぶ様々なインスタレーションetc.
f:ヨーガシステム、日常の発達と「逆」方向(はじまり)への誘導
H:冥想状態p=i体験時の心身の相貌:メール山
冥想状態p=i体験時の心身の象徴:「光」
(上記、歩と坐の区別は曖昧である。ここでは歩を動的、坐を静的と考えておく。従って、立禅などは坐しているわけではないが、本研究の文脈では坐と考える。)
中国的冥想、インド的冥想において、ともに気の昇華のプロセスとして、「逆方向」ということを教える。つまり、日常における気の流れを、冥想において逆行させることである。これは人間の個体発生を逆にたどることであると同時に、宇宙の進化のプロセスを逆にたどることである。これがSYSTEM/1、SYSTEM/2の相互貫入の内実である。深層心理学的にはノイマンの人間の発達過程を逆にたどることである。しかし、これは生物学的時間を現実に逆行することではなく、大人の内にも存在する乳児や幼児の元型archetype(ユング)を回復させて、心の全体性psychic totalityを達成しようとするもの、と言える(6)。
この体験には、気が背柱を昇華しつつ昇っていく、という実感を伴う。下半身に負荷をかけ、それによって蓄積される気の生命エネルギーを上昇させていくのが昇華の実感である。中国的冥想においてもインド的冥想においても「歩」と「坐」の違いはあっても、下半身に負荷をかけ、上半身をできる限りリラックスさせる、その時の身法、口法、意法の詳細は驚くほど似ている。
こうして「元気」になると同時に深く癒されていく。そのときの現象学的な心身の実感は「光」、「山」の相貌を持ち、むしろ「あの世」の風景に似てくるのである。
(5)中国的冥想、インド的冥想の技法の詳細は、中島康他:東洋的冥想とその場所づくり、
中島康:東洋的癒しの基本構造とその場所づくりについて、
H13年度日本建築学会近畿支部研究報告集等を参照
(6) 織田尚生:改訂版深層心理学