癒し Healing
東洋的癒しの構造とその場所づくりについて
1 「癒し」の基本構造とその場所づくりをめざして
我々は既に、「癒し」を「心の深い安定状態」(究極的にはnirvana)と定義し、次のように仮設した。
仮設:癒しH=f(p,i) p:performance, i:installation
その上で、さらに心身システムを以下のような2つのシステムの重なり合い、と仮設した(1)。
SYSTEM/1 心身関係の表層構造=大脳皮質-感覚・運動
回路-外界知覚・運動感覚(含、 体性系内部知
覚)・思考作用
SYSTEM/2 心身の深層構造=脳幹・大脳辺縁系-自律神経
系-内臓諸器官-内臓感覚・情動
この仮設にもとづけば、SYSTEM/1とSYSTEM/2からなる構造の全体をphysicalな面から見れば身体が、mentalな面から見れば心が、あらわれる。
又、我々は別稿で(2)、仏教における癒しのパーフォーマンスとインスタレーションをつぎのようにまとめた。
*p(performance)は、歩(静的、動的)と坐(静的、動的)からなる
*歩と坐のパフォーマンス構造は、身(身体操法)、口(呼吸、発声)、意(意識操法)からなる
*i(installation)は、歩の場所の構成、坐の場所の構成からなる
それらの全体は身・口・意のperformanceとinstallationとの適切な相互作用によってSYSTEM/1とSYSTEM/2をより深く関係づけ、心の安定を得る。現象学的体験としては、心身は癒しの深まりとともにp=iへと導かれる。つまり、自分の身体、意識という感覚は環境と一体化していく。
この変容の動的過程はマイケル・ポランニィの言う「住み込みin-dwelling」の一種であって、通常の言語や論理によって獲得される顕在知explicit knowledgeの深層に位置する。つまり、いわゆる悟りbodhiは顕在知ではなく、暗黙知tacit knowledgeに属するのである(3)。
この構造は仏教の修行法から抽出したものであるが、一方でそれらは中国やインドの冥想文化に深く根ざすものであり、日本文化の基底構造でさえある。従って、身口意という用語もここでは一般的な仏教用語の意味より広い概念として扱っている。
本論では中国とインドの冥想技法においてこのことを明らかにして、東洋的癒しの基本構造を提示する。
(1)中島康:癒しの場所づくりとしての密教の可能性、H11年度日本建築学会近畿支部、同・2同大会
(2)中島康:仏教にもとづく癒しの場所づくり、H12年度日本建築学会近畿支部、同・2
(3)マイケル・ポランニー:暗黙知の次元、紀伊国屋書店(佐藤敬三訳)